唐突ですが。
親がコーギーを2匹飼っていたのですが。
親の家は、電車に乗って30分くらいで行けるところにあるのですが、
まぁお正月以外はあまり行くこともないのですが、
去年の9月、
まだ残暑の只中の暑い時期、
「犬が、多分階段から落ちたらしい。
現場を見たわけじゃないんだけど。
時々しりもちをついたような感じになって、階段を上りたがらないのよ。」
と母が言いました。
心配になって、様子を見に行ったのが10月の中ごろ。
その時は、全然元気でした。
「最近ね、『お手』をね、『右』って言えば右足を、『左』って言えば左足を出すことを覚えたのよ」
と母が自慢そうに言って、実際にやって見せてくれました。
特に教えたわけじゃなく、
『お手』と言えばお手をするのは当たり前なので、
冗談で「左でお手をしてみなよ」とちょっと言ってみたら、すぐに左足を出したのだとのこと。
それぐらい不思議じゃないくらい、頭の良い犬でした。
「なんだ、心配してきてみたけど、全然元気だね。」
家の中で少し遊んで、
そろそろ帰ろうかと思いつつ犬を眺めてたら、
フローリングで少し後ろ足を滑らせることが数回ありました。
「あれ?本当だ、やっぱりちょっと良くないね?」
「そうなのよ、良く滑らせるから、足が擦れてきちゃって。」
見たら、後ろ足がうっすらと血がにじんでいました。
「これ、痛いんじゃない?ちゃんとお医者さんに診せてあげなよ。」
と言って帰りました。
それから数日後、
包帯をした指を保護するネットを見つけて、
犬の足の保護に良いかと思い、母に言ったところ、
「病院に連れて行ったら、椎間板ヘルニアだって言われて、入院することになった。」
「椎間板ヘルニア?!」
「どんな病気だか、インターネットで調べてよ。」
調べてみたところ、コーギーに多い病気とのこと…
軽いものから重度のものまであり、
治療法は手術か、
その前に針治療という手も試す価値はあるらしい…
等々、いろいろ調べて、
近くの良さそうな病院なども調べて、
資料を母に渡したりもしたのですが、
いかんせん、一緒に住んでいるわけではないので、
私のところに情報が来るまでにタイムラグがあり…
私にはハッキリした状況がわからないまま、
犬の後ろ足の状態は、どんどん悪くなっていったようで…
2週間ほど入院して、退院した時に会ったら、
酷くやせ細って、
普段はあまり甘えない犬が、
聞いたこともないような心細い声を出して甘えてきました。
後ろ足は、もう動かないようでした。
針治療とか、そういう段階では、もうありませんでした。
さらに言えば、入院中、獣医さんに「貧血の症状があるので、手術することができない」とも言われたとのこと。
それが、去年の12月ぐらいのこと。
年末の忙しさに紛れて、
次に会いに行ったのはお正月。
…後ろの足先が、ない。
病院から家に戻って、凄く元気になって…
…元気になったのは良いのだけれど…
もともと、凄く頭がよく、力もあり、運動神経も抜群の犬で、
首輪を付けてもすり抜け、
ちょっとした鍵も器用に開けてしまう、
いわばスーパー犬だったので…
エリザベスカラーも取り払い、
ブラブラの足を構わず歩き回ったとのことで…
後ろの足先が、膝(?)の下から、ない。
調理する前の鶏のモモ肉みたいになってる…。
相当、スプラッタな状態…。
気が遠くなりそうになりました。
しかし、当の犬は、元気でした。
退院した時の弱々しい様子はどこへやら、
後ろ足がないというのに、前足だけで元気に力強く歩き回り、
母が薬を塗ったり、包帯を巻いたりするのも大変なほど。
母が餌の前に「お手!」と言ったら、
早く食べたくて両前足を交互にバタバタさせるぐらい、馬鹿みたいに元気。
「お前、入院してる間に馬鹿になっちゃったのか?」と母が苦笑い。
「何で、お前、後ろ足がないっていうのに、そんなに元気なんだよ。」
と思いました。
でも、元気なら、まだ良いか。
次にしてあげられることとしたら…
車いすか?
良い車椅子を作ってあげられるところを、いろいろ検索しました。
その前に、せめて怪我しているところを保護しようと、
犬用の靴下を買って、
「持って行こうと思うんだけど」
と母に電話をかけたら、
「今、病院にいる」
とのこと。
それまで診てもらっていた動物病院は遠かったので、
母が自分だけで通える近くの病院を探して連れて行ったところ、
足の状態を見て、
「すぐに手術しないとダメです!このままだと感染症になります!」
と言われ、即、手術をすることになったとのこと。
貧血だから手術は…と言ってる状態ではないとのこと。
それが、まだ正月松の内の頃のこと。
そこで1週間ほど入院して、戻ってきたとき…
後ろ足は、腿から下を切断されていました。
買った靴下は意味がなくなってしまったけれど、それは覚悟してました。
ネットでいろいろ調べる中で、
足先に問題が生じた場合、中途半端に残しておくより、
腿から切断した方が良いのだ、というお医者さんの記事を目にしていたので。
スプラッタな状態で良いとはさすがに思ってなく、
綺麗に縫合してもらって、感染症になる恐れがなくなって、
良かったと思いました。
しかし…
足の切断はともかく…
すっかり弱って、ふせもできずに、苦しそうに横たわっている状態で…
母が、
「おそらく、あと1週間ぐらいだって言われた」と…。
その病院で言われたのが、
「椎間板ヘルニアではなく、変性性脊髄症の可能性がある」
とのこと。
…椎間板ヘルニアについて調べるうちに、この病気についても目にしていたのですが…
10歳くらいのコーギーが多く発症しているとか。
うちの犬は、9歳。
…一説によると、
10年くらい前、コーギーが流行った時に、
大量に繁殖させたのが、この遺伝病が広まった原因では?とか…
最後には、呼吸不全で亡くなってしまうとか。
呼吸不全で亡くなってしまうって…
どんなに苦しむことになるのだろう?!
既にその時点で、
前足もピクリとも動かず。
お正月には、前足だけであんなに元気に歩き回っていたのに。
もう、自慢のお手もできない。
首から下が、自分では動かせない状態。
排泄も、お腹をさすって、絞り出してあげなければならない。
おむつをしてあげるのだけれど、触り方によっては、ひどく痛むようで…。
どう触ってあげていいのやら…。
それが、1月半ばのこと。
もう長くないのなら、せめて、少しでも良いものを食べさせてあげようと…
でも、消化機能も弱っているのだから、消化によくないものを食べさせるのも良くないとのこと。
少しでも美味しそうなシニア犬向けの缶詰やら牛乳やらをあげました。
…この犬は、とても美人で、頭も良かったのですが、
子犬の時から、何故か食い意地が凄くて…
この期に及んでも、それは変わらず…
ぐったりと弱々しく横たわって、
首から下は全く動かないというのに、
何故か食欲だけは全開。
ガツガツと、たいらげるたいらげる。
いや、生命力があるのは良いことだ。
こういう状況では、食い意地がはってて良かった。
まさに、食いしん坊万歳。
状態は日によって違っていたとのことで、
家に戻ってきた初日が一番死にそうなほど弱々しかったけれど、
時々私が行った時には、顔だけ見ると元気そうだったことも。
目ヤニだらけでボーっとした顔だった時もあったけど。
耳はピンっと立ってました。
毛並みもそんなには悪くなってませんでした。
食欲はずっとあり、
「生命力の強いこの子のことだから、もしかしたら、このまま良くなるんじゃないか?!」
とさえ思い始める程でした。
ご飯をあげた後、お腹をさすって絞り出してあげて、赤ちゃんのようにおむつを替えてあげると、気持ち良さそう~な表情をして、トロンと眠りにつきました。
結構時間をかけて世話をしてあげられたのが、休日の2月11日のこと。
私とは、それが最後でした。
それから10日ほど後、死んでしまったとの連絡が来ました。
話に聞くところによると、
夜、母がいつものように食事をあげて、いつものようにガツガツ食べていたのですが、
「もう要らない」という感じで食べるのを止めたと思ったら、
スーッと眠るように死んでいったとのことです。
「『あれ?眠ったのかな?』とも思ったけど、すぐに違うってわかった。
あんな死にかたってあるんだねぇ。」
と言っていました。
最後は呼吸不全になると聞いていたので、
どんなに苦しむことになるのかと心配していたけれど、
そんなに苦しんだ様子でなくて、良かった。
最後の最後まで、ご飯を食べて、
それも母の手からご飯を食べて死んだのなら、
せめて、良かったのだろうと思う。
死んだ後に会いに行くとき、
母が何故か「犬に着せる洋服を買ってきて」と言いました。
今まで、洋服なんて着せたことなかったのに。
何故最後に着せたがったのか、理由はよくわからなかったのですが、
母が着せたいって言うのだから、まぁ探して買っていきました。
こういう時って、なかなか見つからないもので、
やっと見つけたのが真っ赤なスカート。
サイズが良くわからなかったので、着せようとしたら少しきつそうでした。
「なんか、苦しくないかな?」と思いましたが、
まぁ、死んでるから大丈夫かな…と。
その服を着せてあげたら、私がしてあげられることは、もうなくなってしまったと思うと、涙が出てきました。
生きている時は、あんなに柔らかくて温かかったのに、
死んでしまったとたん、何であんなに、触るとヒヤッとするほど、冷たく硬くなるんでしょう。
毛皮は変わらずに生えているのに。
不思議ですね。
良い犬でした。
とにかく頭が良くて。
凄く美人で。
運動神経が抜群で。
甘えるのが下手で。
プライドが高くて。
結構臆病で。
食い意地がはってて。
声が変で。
責任感が強くて。
弟分の犬の世話をよく見てたし。
普段は威張りんぼだったけど、
いざとなったら凄く心配して駆けつける子だった。
散歩中にひもが外れても、自分勝手に駆けてくなんてことはしなかった。
後ろを振り返りながら、全体の様子を見ながら歩く子だった。
ほとんど一緒に住んでいなかった私のことも、ちゃんと家族と認識してた。
一年ぐらい会わなくっても、全く忘れていなかった。
家族の状態が良くない時は、心配そうにじっと見る子だった。
母が体調を崩した時も、心配そうに様子を見て、
普段は絶対しないのに、布団の足元で丸まって一緒に寝てた。
母に何かがあっても、この子がいれば大丈夫なんじゃないかって思うくらい、
いざとなったら電話ぐらいかけてくるんじゃないか…とまではいかなくても、
何らかの方法で近所の人に知らせに走るくらいのことはするんじゃないかって思えるくらい、頭が良かった。
「人の話を理解しようと、じっと耳を傾ける子だった」と母が言っていた。
あの、大きな目で、人をじっと見て、
何かあったら心配そうな目をしていたあの子に、
魂がなかったなんて思えない。
冷たい亡骸が全てだなんて、とても思えない。
きっと生まれ変わって、次はもっと良い人生を送れるに違いない。
「おそらくあと1週間ぐらい」
と言われてから、
1カ月生き延びた。
最後まで頑張ったね。
本当に、良い犬だった。
去年の10月に行った時に撮った写真が、元気なころを撮れた、最期の写真となってしまいました。